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「・・・涼。」
「?どうしたんだ?何だか寂しそうな顔して・・・」
いつもいつもここで、他愛無い話をしてた。
天気がどうの、森の木がどうの、動物がどうの・・・不思議と癒される気分だったのに・・・。
「・・・」
「?」
「あたしがいつも帰りに手を差し出しても、握手してくれなかったのは・・・涼がこの世の人じゃないから、なの?」
いつも涼が帰る時にあたしは握手のつもりで手を差し伸べたけど、その手を取ってくれた事は一度もない。
それどころか冗談のつもりで涼に触れようとした時も、スルリとすり抜けて笑ってた。
「・・・気づいちゃったんだね。」
最近は見せなかった寂しそうな笑顔が、再び涼の温もりを奪う。
八戒に似た雰囲気を持つ涼が、寂しげな顔をしているのが嫌だった。
だからあたしと喋る事で涼が笑ってくれるなら、少しの間彼と一緒にいようって思った。
「あたしは、分かんなかった。」
「だろうね。は少しおっとりさんだから。」
「・・・うん。」
ボロボロと涙が溢れてくる。
部屋の入口には、三蔵が・・・数珠を手に立っている。
最近あたしの体がやけに疲れてるのは涼の所為だって。
涼があたしの生気を奪ってるから、だからあたしが元気ないんだって教えられた。
だからこれ以上涼があたしといる事を望むようなら、祓うって・・・言った。
「泣くなよ・・・が泣く必要なんて何処にもないだろ?」
「・・・だって・・・だって・・・」
「・・・ありがとう、が俺と話をしてくれて嬉しかった・・・楽しかったよ。」
あたしも楽しかったって言いたいのに、嗚咽で声が出ない。
こんな時、言いたい事も言えないくらい涙を流す泣き虫な自分を捨ててしまいたくなる。
けどそんなあたしを見ても、涼はいつも以上に優しい声をかけてくれる。
「ありがとう、俺のために泣いてくれて・・・それでもう、充分だよ。」
「涼・・・」
「1週間、俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。もう、大丈夫。」
「・・・あと1日あったのに。」
「1日、足りなくてちょうど良かったよ。」
「?」
涼の言葉の意味が分からなくて、いつものように首を傾げた瞬間・・・温かな空気が頬に触れた。
「・・・残念、キスの感覚も伝わらないか。」
照れたように笑う涼の顔を見たのは初めてで・・・感覚は無くても頬にキスされたという事が分かった瞬間顔が真っ赤に染まる。
「・・・・・・ったよ。」
「え?」
「・・・」
涼が満足そうな笑みを浮かべて、窓のフチを掴んでいたあたしの手に初めて手を重ねた。
そしてそのまま、まるで空気が流れるように涼の姿が視界から・・・消えた。
「・・・え?」
手に残る温かな空気が、部屋の扉が開いた瞬間に流れて消えた。
「涼?」
名前を呼んでキョロキョロ周りを見るけど、初めて涼と出会った時と同じ様にその姿は何処にも見当たらない。
ただひとつ違うのは、あの時と違って空の月は眩しいくらいに庭の草木を照らしていると言う事。
「涼!」
窓から身を乗り出して、約1週間一緒にいた人の名前を呼ぶ。
まるで兄のようにあたしの相談に乗ってくれて、愚痴を聞いてくれた涼。
寂しげな笑顔が、だんだん温かな笑みに変わっていったのがどれだけ嬉しかったか。
幽霊だなんて気付く事無く、側にいたのに・・・
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